それでも俺は勇者になれない・外伝

第零話
「キャラ紹介」

リーオ=パンテライン

   ・髪色:灰(空五倍子色)#615346
   ・髪型:ショート
   ・特徴:馬鹿、変態、ニート、不器用、妄想好き、興奮すると強い




アリエル=プリンキピア

   ・髪色:茶(琥珀色)#AA7A40
   ・髪型:ポニーテール リボン
   ・特徴:おバカ、ニート、たまに厨二病になって暴走する、ホットパンツの元気っ娘、アリエルかわいいよアリエル




ソフラ=クーペ=ウィルキンソン

   ・髪色:青(縹色)#2B618F
   ・髪型:ロング ストレート
   ・特徴:なのだわ




レノアール=ハーティエ

   ・髪色:緑(浅緑)#8ECAA0
   ・髪型:ツインテール
   ・特徴:妖精族、物知り、基本お淑やか、たまに黒い、たまに言動が危うい




アクロン=ケイト

   ・髪色:赤(紅緋)#DB3D36
   ・髪型:ショートヘア
   ・特徴:おっぱいがおおきいです




牛さん

   ・習性:鋭い角を持つ四足歩行の魔物。突進して獲物を刺し殺して食す。
   ・肉質:肉食なのにお肉が柔らかくて美味しい不思議な魔物、ツッコミは不要。
   ・最近:周辺の街に甚大な被害を出し始めたため、討伐依頼が発行された。

▲モドル

第一話
「食料捕獲大作戦」

「ソフラー、レノアー! そっち行くわよー!」
「アクロさんの誘導、成功したみたいですね、ソフラさん」
「えぇ、まずは第一段階クリアなのだわ。ところで…………リーオとアリエルの二人は何処に行ったのだわ?」
「あれ? おかしいですね? ついさっきまで後ろに付いてきてたんですけど……」
「まぁ良いのだわ、きっと後から来るのだわ。さて、ここからはワタクシの刀が唸っ……て……ん? ……あれ?」
「ど、どうしましたソフラさん? 早く構えてください」
「レ、レノア……緊急事態なのだわ。刀が抜けなっ……ふんぬっ! くっ!」
「えぇぇ……!? 何で突然選ばれた者しか抜けない伝説の剣仕様になってるんですか、そういうの今は要らないですよ!」
「うぅ。きっと、この前斬った魔物の血が錆びて固まったせいなのだわ……」
「でも、私の魔法が発動するまでは時間かかります。ソフラさんと一緒に目標を足止めするって作戦なのに……」
「このままじゃ、せっかく誘導した目標が素通りしてしまうのだわ……」
「いやいやいや……この通路は行き止まりですから素通りしませんよ! 私たちに直接ぶつかってきますって!」
「し、しまったのだわ……!! 逃げ道が……」
「おおーい」
「……あれ、今アリエルの声が……」
「こっちこっちー」
「あ、アリエル!? 貴方、そんな壁の上に立って、一体何をしているのだわ!?」
「ほいっ…………っとと……着地・成功☆」
「グ○コのポーズをビシィと決めなくても良いのだわ……で、あんなところで何を」
「あははは、よそ見してたら迷っちゃってねー。こっち側からソフラ達の声が聞こえたからさ」
「ま、まぁ良いのだわ、もうすぐ目標が到着するから早いとこ準備を頼むのだわ」
「そのことなんだけど……えっとねー、ボクって何すれば良いんだっけ?」
「……」
「……」
「二人とも、ボクの事をお医者さんが黙って首を横に振る時のような深刻な顔で見つめないでほしいな」
「あれほど懇切丁寧に説明したというのに……忘れてしまうとは思ってもみなかったのだわ……」
「えぇ。私も、アリエルさんの事少し甘く見ていたみたいです……」
「というか、ワタクシが描いてあげた説明図はどうしたのだわ?」
「えっと……これのこと?」
「そうそう、それを見れば良いのだわ」
「んー……。だって、ソフラの絵下手すぎてグチャグチャってしてて……ほら、見てよレノア」
「うわ」
「ちょちょちょ、待つのだわ。元はと言えばアリエル、貴方が、やれ文章だと場面が想像出来ないなぁだの、ボクにはソフラの言葉が難解すぎるよだのイチャモンつけるから、仕方なくその図を描いて……というかレノア、今うわって……! うわって……!」
「ごめんなさいソフラさん……でも、これはちょっと……私にも解明出来ない特殊な図式が含まれているみたいで」
「ああもうっ! だから、ワタクシは文章で説明する方が得意だと言ったのだわ!」
「そんなことボクに言われてもなぁ……」
「ところで、肝心のリーオは何処行ったのだわ?」
「居るぜー」
「あれ、今リーオさんの声が聞こえませんでした?」
「うん。リーオならボクと一緒に迷ってたから、この壁の向こう側に居るよ? 実を言うとリーオもね、作戦よく分かってないみたいなんだ」
「あのバカ……一度説明しただけで俺分かりましたみたいな顔で頷いてたから変だと思ったのだわ……ちょっと、リーオ! 早いとこ壁登って、こっち側に来るのだわ!」
「マジかよ……こんな高い壁を俺が? 鬱だ……」
「アリエルですら登れたんだから、男の貴方なら楽に登れるのだわッ!」
「おぉ……そう言われちゃあ仕方ないな! どれどれ……ふんぬっ! くっ……ぬっ!」
「この壁って凹凸が少ないから結構登り辛いですよね?」
「そっかなー?」
「……ふっく……! ぜはぁ! ぬんっ……!」
「この子は昔から、驚くほど頭が悪い反面、驚くほどに手先が器用なのだわ」
「待ってよ、ボクはバカじゃない」
「はいはい。一足す二は?」
「イチタスニーワ? えっと、どこの言葉?」
「……」「……」
「二人とも、捨てられた子犬を拾わないんだけど哀れみつつ遠くから見つめているような視線が、ボクに突き刺さってる。やさしさがいたい」
「ぜぃ……はぁ……アリエルはあんなに楽々と登っていったのに……つうか、どうやって登ったんだ、これ……取っかかりないぞ……」
「分かってはいたけれど、リーオがこの壁を登るのは不可能みたいなのだわ」
「ボクがロープで引き上げようか?」
「それが良いのだわ。後でアリエルに頼むのだわ」
「とにかく今は時間がありませんので、アリエルさんにはもう一度作戦を説明します。リーオさんも、そこで耳をすませて聞いておいて下さいね!」
「うん!」「お、おうっ!」
「今回のクエストの達成目的ですが、目標の群れの撃破もしくは捕獲です。
目標というのは、頭に生えた太い角で突進して襲いかかってくる四足歩行の魔物です」
「ヨンソクホコウ?」
「ちょっと凶暴な牛さんだと思っておいて下さい」
「なるほどね」
「今、私たちが居るこの通路は全体が大きな迷路状になっています。
牛さんの、突き当たりを右に進んでいきたい気持ちを考えた結果、牛さんが最後にたどり着くのがこの場所なんですね。
まず始めに、アクロさんが牛さんの群れをこっちですよーってしながら、今私達が居るこの通路に、一頭ずつおびき寄せてくれます」
「それに関してはひとまず成功したのだわ……合図から考えて、もうすぐ一頭目がここに」
「えっと……ごめんレノア。もうちょっとかみ砕いて説明してほしいなぁ、なんて……」
「すでに離乳食並にかみ砕かれているのだわ」
「つまり……もうすぐ、牛さん、こんにちは、ってことですね」
「わかりやすいね!」
「アリエル、貴方もう少し言葉について勉強した方が良いのだわ」
「えっと……ぜんちょします」
「善処ですね」
「ぜんしょします」
「そういう便利な言葉だけは覚えるのが早いのだわ」
「次にソフラさんが、やってきた牛さんを食い止めている間に、私が魔法によって牛さんの動きを止めます。
凍結系の魔法なので効果は高いはずです」
「レノア先生、トーケツケーとはなんですか?」
「つめたくてカチンコチンです」
「かちんこちん。ふむふむ」
「最後に、リーオさんが牛さんを撃破したら、アクロさんへ合図して、次の一頭を通路へと誘い込んでもらいます。これを何度か繰り返して、牛さんの群れを一頭ずつ減らして狩っていくんです」
「……んー。それで、具体的にボクは何をしたら良いの?」
「アリエルさんは、リーオさんが変態モードになるために彼を興奮させる役割ですね」
「ヘンタイモード?」
「アリエル。貴方、その脳の記憶領域にいったい何をそんなに詰め込んでいるのだわ?」
「皆との想い出、ぷらいすれす」
「その想い出の中に、リーオも混ぜてあげるのだわ」
「リーオさんて、普段は非力で不器用で使えない人ですけど、ものすごく興奮すると、変態モードになって恐ろしく強くなりますよね?」
「そうだっけ」
「非力で不器用で使えない……か。まぁ否定は出来ないけどさ……」
「うわぁ。す、すいませんリーオさん! つい本音が……」
「……うん、そうだよね、それが本音だよね。い、いいよ……たまにはレノアになじられるのも悪くない、続けてくれ」
「あははっ。レノアってば、リーオは非力で不器用で使えないだけじゃないよ。ニートが抜けてるって」
「お前もニートだろうが」「貴方もニートなのだわ」「アリエルさんもニートですよね」
「しゅん……」
「というか、いつの間に変態モードって名付けられてたんだ……もっと何か他の言い方は無いのか……英雄モードとか怪力モードとか……」
「変態モードで十分なのだわ」
「とにかくリーオさんの不思議な体質を利用しない手はありません」
「それで、ボクはリーオと何をすれば良いの?」
「そうですね。えぇと例えば、リーオさんの耳元で激しく喘ぎ声を上げたり、罵詈雑言を浴びせかけながら蹴ったり殴ったり……」
「アエギゴエ? バリゾーゴン?」
「何か不穏な単語が聞こえたぞ」
「問題ありません。もしくは、胸元を大胆に開けて誘惑を……胸元を……胸……?」
「ソフラ……気付いたのだけれど、これは完全に人選ミスなのだわ……その役目、アリエルやワタクシ達には荷が重すぎるのだわ……」
「そうですね……。私もそう思います」
「ねぇ二人とも、何でボクと自分たちの胸を見比べながら悲しい顔をするの? 三人ともペタン娘なのが関係しているの?」
「ぺ、ペタ……!? わ、私は……ソフラさんよりありますからねっ」
「レノア、貴方は何でさりげなくワタクシを貶めようとしているのだわ?」
「……か、感度も良好なんですからッ!」
「ブッパァ! か、感度も良好、だと…………んふ、ふふっ!」
「ちょちょちょ……レノア少し落ち着くのだわ。というか、リーオ! 貴方何を想像しているのだわ! 今すぐにその破廉恥な妄想をやめるのだわ!」
「んっふっふっ……そうはさせん、そうはさせんぞ!」
「しまったのだわ……完全にトリップしたのだわ……」
「あはは! って……あ、見て見てアクロだよ。おーい!」
「皆ー! 来たわよー! もちろん準備は出来てるわよねー!」
「これはグッドタイミングですね。セクシー担当のアクロさんならリーオさんを興奮させ……って……あれ?」
「な、何でアクロがこの通路内に入ってきているのだわ?」
「……ふぅ! 久々に全力で走ったから疲れたちゃったわよー! …………ん? リーオはどうしたの?」
「リーオさんなら、この壁の向こう側で妄想の世界に浸っています。ところで、アクロさん……何故ここに?」
「何故って……何よ? アタシもしかして要らない子?」
「貴方、目標の誘導はどうしたのだわ?」
「あぁ。そりゃあもう大成功よ! もうすぐアタシを追いかけて、目標の群れが大群なしてやってくるわ!」
「は?」「へ?」「ふーん」
「さぁアンタ達の腕の見せ所よ、気合い入れなさい! って……ん? ソフラ、どしたの? 般若とナマハゲとひょっとこを足して五で割ったような顔して……笑えるわよ? その顔」
「呆れているのだわ!」
「えぇとですね、アクロさん……作戦では目標を一頭ずつ、この通路内へとおびき寄せる手筈だったと思うんですが……」
「そうだっけ? いや、でもソフラから貰った説明図だと、目標の群れっぽいのが通路に矢印で誘導されてたわよ?」
「あー。ほんとだ、確かにこの図だとそう見えるね。むしろ、そのようにしか見えないよね」
「なるほど。このミミズが数匹絡まりあって出来たおぞましいクリーチャーみたいな絵が、目標なんですね」
「もうこれ以上ワタクシの心の傷に触れないでほしいのだわ! というか、アクロ、まさか貴方まで作戦の説明を聞いてなかったのだわ!?」
「いや、聞いてたんだけどね。ソフラの説明やたらと難しい単語やら面倒な言い回しが多くて、尺も長かったじゃない? だから、後でレノアに聞き直そうと思ってたんだけど……この説明図貰ったしどうにかなるかなって思ったのよ」
「あれ? ちょ、ちょっと待って下さい……? そうすると、ここってもの凄く危険なんじゃないですか? 目標の大群がまとめて」
「そうそう。アタシも自分のやる事以外はイマイチ分かってなかったから、あんな大群を一網打尽にするなんて度胸あるなぁって思いながら誘導してきたわけなのよ。目標が四足歩行の魔物って事だけはバッチリ聞いてたから、牛っぽいのを想像してたけど、ありゃ牛っていうよりもバッファローよ、バッファロー!」
「だからこそ、一匹ずつ狩る予定だったんです……」
「それと、見た目に反して予想以上に足が速いから怖かったわー。もしもソフラが囮役だったら、確実に串刺しにされてたわね、あっはっはっは!」
「え……? 情報によると、足はそれほど速くないはずですよ? ……赤いものを見て興奮しない限り……赤い、もの……」
「……赤……なのだわ」
「そっか、アタシの赤い髪を見て興奮しちゃったのかな?」
「アクロさん。髪の色もまぁ、そうなんですけど……」
「貴方……何でいつの間にかそんな挑発的な真っ赤装備で固めているのだわ! ついさっきまで地味な服装してたというのに!」
「あー、これ? いや、地味な服装だと気分乗らないからさぁ。ちょっくら着替えて来たのよ……でもほら、似合うでしょ? ねっ?」
「人選ミスなのだわ」
「ですね、どうしましょう」
「そんなの問題ないわ。ソフラがお得意の刀捌きでバッサバッサと斬り伏せれば良いじゃない。アタシも加勢するわよ」
「刀が無事なら、そうするのだわ……」
「ソフラさんの刀、錆びてしまったらしくて……」
「ぷふっ……ソフラ、アンタやっぱり刀錆びさせちゃったの? だから、あれほど手入れした方が良いよって忠告しておいたのにー」
「う、うるさいのだわ! 後でアリエルに研いでもらうから良いのだわ!」
「……それにしても、なかなか来ないですね?」
「おっかしいなぁ……あのスピードだったら、そろそろコッチに来ててもおかしくないんだけど……途中で引き返したとか?」
「いえ。目標の習性から考えると、途中で進路変更する様なことは無いはずですよ。……何か、別のものに気が向かない限り」
「どちらにしろ作戦を練り直す必要があるから、来ないなら来ないで一向に構わないのだわ」
「あ、そうだ。アリエルさんに壁の上に登ってもらって、目標の様子を見てもらいましょう。ここからならきっと見渡せるはずです」
「それは名案なのだわ。ささ、アリエル! さっきみたいに、ひょひょいっと登るのだわ!」
「……」
「アリエル? 聞いているのだわ?」
「……ん」
「そういえばアリエルさん、さっきからずっと静かですね」
「どれどれ? …………ありゃあ……ダメね。この死んだ魚みたいに濁った虚ろな瞳は」
「……ん」
「うん、どうやら完全に燃料切れみたいね」
「今日は朝食少なめでしたから、きっとお腹空いちゃったんですね」
「本当、燃費が悪い子なのだわ…………」
「こうなっちゃうと、何か食べさせるまでずっとこんな調子だからね。どうするのよ?」
「困りましたね……」
「…………あ……そうそう……アリエル。このクエストに成功すれば、お礼として狩った魔物のお肉をたらふく食べさせてもらえるらしいのだわ。
「……ピクン」
「今ので瞳に光を取り戻したわよ」
「それと……この魔物、狩るのが大変な分、お肉はすごく美味しいと街でも評判なのだわ」
「ようし、皆! ちゃっちゃと牛さん撃退して、肉充しようっ!」
「……やる気満々ですね」
「全く、単純で助かるのだわ……。それじゃアリエル、早速壁の上に登って目標の様子を見てきてほしいのだわ」
「了解であります! ソフラ隊長! シュビシュバッ!」
「登り方が手慣れていますね」
「いくら身軽なアタシでも、さすがにこの壁を登るのは無理かもしれないわね」
「誰にでもひとつくらいは取り柄があるのだわ……アリエルは、手先が器用で道具の扱いにも長けているし、恐ろしいほどに頭が残念なのだわ」
「まぁ、確かに頭の中はお花畑よね」
「向日葵が大量に咲いてそうですね」
「えへへ、カラフルで綺麗ってことかな?」
「レノアは魔法が使えるし、植物やら魔物の知識が豊富で物知りなのだわ」
「人形みたいで可愛いわよね」
「そ、そんなことないです……」
「毒舌だよね」
「……ほう」
「アクロは運動神経抜群だし、口が巧くて交渉術に長けているのだわ。そして特筆すべきは……」
「おっぱいなのだわ」「おっぱいですよね」「おっぱいだね」
「アンタらねぇ」
「所詮、脂肪の固まりなのだわ」「感度なら……感度なら負けませんッ」「しぼめば良いのに」
「ミルク飲みなさいよ、ミルク!」
「アクロ、貴方のおっぱいの話はどうでも良いのだわ。飽き飽きなのだわ」
「そうですね。そんな余計な時間はありません」
「自慢げに揺らされても困るよね」
「アンタらが言い出したのよ!」
「ソフラさんは戦闘経験も豊富で、刀の扱いに長けていますよね。まぁ胸は私の方が大きいですけど」
「統率力もあるし頭の回転が速いわよね、あと意地っ張り」
「ソフラは昔から努力家だよ、絵はグチャグチャで下手っぴだけど」
「そうですね。絵は……まぁ……特徴的、ですよね」
「えぇ、絵は……まぁ……独創的、ね。うん」
「二人とも気まずそうに目を逸らさないで良いのだわ。と、とにかく……こんなチグハグなパーティでも、協力し合えば難しいクエストも達成出来るのだわ! それが言いたかったのだわ!」
「皆、こっちで大量の鼻血噴出しながら妄想に浸っているリーオの事も忘れないであげて」
「あぁ、ずっと静かだったからすっかり忘れていたのだわ……」
「リーオさんの取り柄ですか……」「リーオの取り柄ねぇ……」
「……リ、リーオは……まぁ確かに、不器用で頭も悪くて運動音痴で使えない男だし、取り柄がひとつも無い様に思えるのだわ。でも……」
「……か、かっこいいのだわっ」「たまに頼りになるわよね」「変態ですよね」「ニートだよね」
「……」「……」「……」「……」
「///」「は?」「えっ?」「ん?」
「おんやぁ? ソフラちゃん、アンタ今何て言ったのかなぁ? お姉さん、ちょっと聞こえなかったわぁ?」
「な、ななな……なんでもないのだわ! 貴方こそ、頼りになるなんて恥ずかしい台詞、よく言えたものなのだわ!」
「ふ、ふんっ! あくまで、たまによ。た・ま・に! 普段はバカで頼りない男よ!」
「二人ともどうしたの? 顔真っ赤だよ?」
「ニートは黙っててほしいのだわ」「ニートは黙ってなさい」
「しゅーん……」
「まぁまぁ二人とも、アリエルさんにあまり辛く当たらないであげて下さい」
「レノアは優しいなぁ……天使みたいだよ」
「アリエルさんは確かにニートで頭がアレですけど……どんなクズみたいな人間だって、魔物おびき寄せるための餌くらいにはなれるんですから、ね?」
「しゅーん……」
「きっと、さっき毒舌って言ったこと根に持っているのだわ」
「えぇ……レノアは結構引きずる子だから、案外怖いわよ」
「でも、確かに二人の言う通りですよ」
「なななな何が、なのだわ?」「なななな何の、ことかな?」
「リーオさんて、さりげなく気遣いしてくれる優しい人ですし、いざという時はかっこ良くて頼りになりますよね」
「そ、そうそう。そういうことなのだわ! 別に他意は無いのだわ!」
「そうね。うん、そうそう」
「とにかく言い合いしてるのも時間の無駄だし、早いとこ終わらせて帰るのだわ!」
「さぁさ、アリエルさん? そんな所で人生の淵に立った様な顔して落ち込んでいる場合ではないですよ。働いてくださーい」
「……しゅーん」
「アリエルさんの希望職は、魔物をおびき寄せるための撒き餌ですかー?」
「レノア様! ボク、周囲の様子を伺ってくるであります!」
「よし、良い子です! 出来る限り迅速にお願いしますね」
「それにしても……レノアが良い笑顔で、変態ですよねって言い切ったのが印象的だったのだわ」
「そうね。悪気の欠片すら無い、純粋な笑顔だったわ……物語で見るような天使みたいに……」
「……」「……」
(きっと天使の薄皮を被った悪魔なのだわ)(おそらく悪魔の心を宿した天使ね)
「二人とも、深刻そうな顔してどうしたんですか?」
「今後の作戦について考えているのだわ」
「そうよ」
「皆ー」
「あら、思ったより早いわね」
「だから言ってるでしょ。ボクだって、やれば出来る子なんだから」
「この子は、やれば出来る事をやらないだけなのだわ……」
「目標はどの辺りに居ましたか? もうすぐここに?」
「えっとねー。牛さん、こっちには来ないみたいだよ?」
「やっぱり引き返したって事かしら?」
「うーん……別に引き返している訳じゃないみたいだよ。地面の匂いをくんくん嗅ぎながらね、ゆったり歩いてるよ。何か探しているっぽいね」
「地面の匂いを嗅ぎながらゆったり、ですか? まさか……」
「ソフラ、どういう事か分かるのだわ?」
「あー…………えっとですね……さきほど牛さんが赤い物を見て興奮したと言いましたが、本来あの牛さんは赤い血を見て興奮するという性質なんですね。赤い物を血だと認識することで、興奮しているんです」
「ふむ……なるほど。つまり血を出している獲物を見て興奮しているということなのだわ?」
「そうです。牛さんは、血を出している獲物は弱っているという事を本能的に悟っていますので、血に関しては敏感に反応します。更に言えば、牛さんは嗅覚によっても、獲物が血を出しているかどうかを判断しています。視覚と嗅覚が同時に反応した場合は、嗅覚情報を優先して獲物を狙い定める習性があります。そして、嗅覚情報を優先している際の速度は大変ゆったりとしたものですが、嗅覚と視覚の情報が一致した時、つまり濃厚な血の匂いを放つ血だらけの獲物を視界で捉えた途端、彼らは凶暴化して、その突進速度も最高速に達します」
「つまり今現在の目標は、嗅覚情報を優先している、そういう事なのだわ?」
「その通りです。この大変危険な状況において、牛さんの歩く速度がゆったりしているのは不幸中の幸いですね」
「へぇ。つまりアタシみたいにただ赤い服を着ているだけの人間より、血の匂いをさせている人間の方が優先して狙われるってことかぁ。あの牛も結構考えながら動いているのねー。……ん?」
「……赤……紅……鮮血よりも紅く……灼熱よりも熱く……」
「ちょ、ちょっと……!? アリエルの頭から煙が出ているわよッ!」
「ソフラさん……もしかしてこれ……まずいんじゃないですか?」
「こんな所でアリエルに暴れられたら、クエストどころの騒ぎじゃないのだわ……」
「……我が肉体に眠りし竜の血潮……呼び声に応え……呪われし血族の力を……この身に……」
「うわわっ! ソフラさん! 詠唱始まってますよ!」
「わ、分かっているのだわ! アリエルー! 貴方は無理して理解しようとしなくて良いのだわ! お肉の事だけ考えるのだわ!」
「我が名は……肉……おにく……食べ放題……ジュージュー焼き肉……高級お肉……はっ!? そうだよっ! ちゃっちゃと終わらせて肉充しなくっちゃ!」
「お、おぉ……正気に戻ったみたいですね。さすがソフラさん……」
「ふぅ……本当、単純で助かるのだわ……というか、アリエルといい、リーオといい……パーティに二人もチート能力者が居るなんて本当恐ろしい事態なのだわ。しかも両方ニートってどういう事なのだわ……」
「扱いようによっては便利かもしれませんけど、アリエルさんのは力の制御出来ないですからね……」
「えっと……アリエルのこの厨二っぽい病気は何なの?」
「それに関しては長くなるから、機会が出来た時にでも話すのだわ……とりあえず今は目標の撃破が優先なのだわ」
「ソフラさん。その事なんですが、私、血を出している人間に心当たりがあります」
「あー……ワタクシも今、名前を口に出して気付いたのだわ。本当、すっかり忘れていたのだわ……」
「な、何よ? 誰か怪我でもしているの?」
「怪我というかですね。……アリエルさん、リーオさんは今どうしてます?」
「えっとねー。今は惚けた顔して虚空を見上げているよ、血だらけで」
「やはり、そうでしたか。牛さんはどうやら、リーオさんの鼻血の臭いに反応してしまったみたいですね……」
「なるほど。鼻血か……負傷者が居た訳じゃなかったのね」
「言われてみれば、確かに途中で変な効果音が入っていた気がしたのだわ。恐らく、レノアが感度も良好とか口走った時なのだわ……」
「わ、私は……事実を言っただけですっ!」
「ちょっと待ってよ、レノア! ソフラも割と敏感な方なんだからねっ!」
「いやいやいや、ちょっとアリエル? 貴方は何でワタクシに代わって張り合っているのだわ?」
「そ、そうだったんですか……!? そんなの初耳です! でも私だって感度部門で負ける訳には」
「レノア、貴方は一体何と戦っているのだわ……」
「あら。それなら比べてみれば良いじゃない」
「くらべるって、どうやるの?」
「え? そりゃあ………………な、舐めてもらったり?」
「な……舐めてもらうんですか……」
「だれに舐めてもらうの?」
「誰にって、アンタ……そんなの……えっと…………ちょ、ちょっと待って……ごめん。自分でも言ってて少し恥ずかしくなったわ」
「うぅぅ。それは、恥ずかしいとかそういうレベルじゃ…………し、しかし負ける訳にはいきません」
「あ、貴方達は少し頭を冷やすべきなのだわ! 今は感度がどうとか、それどころじゃないのだわ!」
「あははっ! すっごい、三人とも顔が真っ赤っかだよー。赤いから牛さんが興奮しちゃうねー」
「ニートは黙っているのだわ!」「グチャグチャに切り刻んで魔物の餌にしますよ?」「アリエル、アンタ後で宿屋裏ね」
「ご、ごめんなさい…………あとレ、レノア様……その、中ボス程度の雑魚なんて視線だけで殺してみせますみたいな目やめてください、瞳の奥に宿る狂気の黒き炎ちょう怖いです」
「まぁ、良いのだわ。まずは落ち着いて状況を整理するのだわ」
「はい。今現在の牛さんはゆったりとした速度で進行中、狙いはリーオさんです。そして当のリーオさん本人は、鼻血を出しながら妄想の世界に浸っている状態ですね」
「ふむ。実に好都合なのだわ、作戦は決まったのだわ」
「ど、どうするのよ?」
「変態モードのリーオに何もかも任せるのだわ」
「えぇ。残念ながら、牛さんの大群を一人でどうにか出来るのはリーオさんくらいです。今の私達に残された方法はそれしかありません」
「足止めなんてまどろっこしい事考えずに、最初からこうすれば良かったのだわ……」
「しかし問題があります。リーオさんが変態モードに移行するまでは、後一押しの刺激が必要なんですよね」
「後一押しの刺激ねぇ……ソフラ、何か案はあるの?」
「ふむ……アリエル。貴方、試しに今その場で、ちょろっと下着でも見せびらかしてみるのだわ」
「わかったー。 ペラリ」
「……な、何の躊躇いもなく下着を露わにしましたね」
「あ、あんなに簡単に見せるとは思わなかったのだわ……恐ろしい子なのだわ」
「で……どうなのよ? リーオはアンタのパンツ見てるの?」
「どうやら気付いてないみたいだねぇ。おーい、リーオー? ほらほら、君の大好きなパンツだよー? ほらほらぁ」
「これは、かなり酷い絵面ですね……」
「やらせておいて何だけれども、とんだ変態少女なのだわ……」
「むふふ……ん? お、俺は一体何をして……って……お、おい……アリエル! お前、そんな格好してたら風邪引くぞ!」
「うん。しっかりと心配されているのだわ……というか、リーオもこんな重要な場面に限って、紳士的な対応なのだわ……」
「まぁ仕方ないわね。……あれ、スポーツタイプのパンツでしょ」
「そうですね、もっと何かこう……破廉恥な下着じゃないと……」
「……」「……」「……」
「後出し負けよ、じゃーんけんっ!」
「あっ、ズルいのだわ!?」「ちょっ……ま、待ってください!」
「ぽん」「ぽい」「……ていっ!」
「チョキ、なのだわ」「チョキ、です」
「ふふん。パーね……って、あれ?」
「はい。アクロに決定なのだわ」
「アクロさん、若干後出しして負けるとかどういう脳の構造してるんですか」
「ま、待ってよ……! こんな重要な役目、じゃんけんで決めるとかあり得ないわよねッ!」
「貴方が勝手に言い出したのだわ。冒険者たるもの、自身の発言と行動には責任持つのだわ」
「アリエルさーん、ロープとかありますー?」
「あるよー。壁に固定するからちょっと待っててねー」
「さぁさアクロさん。アリエルさんに引き上げてもらいましょうね」
「アリエル、アクロを引っ張りあげるのだわ」
「任せてー」
「待って、本当に待って! というか、自分でパンツ見せるってどんだけ変態なのよ! アタシそんなバカみたいな真似出来ないわよ!」
「……ボクは皆のためと思ってやったのに……皆のためと思って……皆……肉のため……じゅる」
「アクロさんが酷い事言うせいで、アリエルさんの瞳から光が急速に失われつつあります」
「あっ、いや違うのよアリエル。アンタがバカだからどうという話ではなくて、まぁアンタはバカだけどっ」
「しゅしゅーん……」
「どちらにせよ、わざわざ見せつける様な真似しなくても今日の貴方はショートスカート穿いてるから、壁の上に登った時点で丸見えなのだわ」
「そんな事言ったら、アンタだってスカートじゃないの!」
「ワタクシのスカートは膝上まであるけれど、貴方のスカートは下着が見えそうで見えない限界ギリギリのデザインなのだわ……まぁ、自業自得なのだわ」
「もう、こんな事ならショートパンツでも穿いてくれば良かったわ! きょ、今日の下着だけは……本当に見られたくないのよ!」
「アクロ、わがままはダメだよ。皆で協力し合ってクエストをクリアしよう。街の人達も牛さんに困っているんだよ?」
「アリエルさんが珍しくまともな事言ってますね……」
「だからアクロ。……お肉の……じゃない。……えぇっと……皆のお肉のために頑張ろう!」
「結局肉じゃないのっ!」
「そうだよ」
「開き直った!?」
「とにかく、急がないと時間が無いのだわ! アクロ、覚悟を決めるのだわ」
「わ、分かったわよ……! 登れば良いんでしょ、登れば! はいはい! 登りますよ!」
「それではアリエルさん、お願いします」
「はーい…………って、あれぇ? ……ロープが重い重いって悲鳴上げてるよ? どういう事かなー? アクロのおっぱいの分が重いのかなぁ?」
「ちょっと! そんな訳ないでしょ!」
「……さて……見られたくない下着ってどんなのでしょうね」
「確かに、ワタクシもそれが気になっていたのだわ…………」
「……うぐ……こ、ここ……案外高いじゃない。アリエル、アンタよく平然としていられたわね」
「リーオー。ほらほら、アクロのパンツだよー。見てー」
「あ? 何だ、アクロまでそんな所に登っ…………お、お前……そのパンティは……!」
「うひゃああ……! あ、アンタねぇ! そんなにマジマジと見るのは止めなさいよね! 訴えるわよ!」
「……す、すまん。つい」
「リーオには見てもらわないと困るのだわ……というか、アクロ貴方それ……」
「か、可愛い下着ですねー」
「貴方……! 何で下着だけそんな子供っぽいデザインなのだわ!? 全身真っ赤装備で気合い入れたんだったら、真っ赤でセクシーな勝負下着でも穿いてくるのだわっ!」
「わ、悪かったわね! お気に入りなのよっ!」
「えー、なになに? どんな柄なの?」
「デフォルメされたネコさんが様々なポーズで沢山プリントされてるキャラ物下着です」
「……にゃっはっは! ネコさん! アクロってば、かーわいいー!」
「ぐぬぬ」
「うーん……しかし、これでは無理っぽいですね」
「こうなったらもう、アクロご自慢のその大きな最終兵器でも何でも出したら良いのだわ!」
「阿呆かーっ! だ、出すわけないでしょッ!」
「にゃはは……って、あれ? アクロってばスカートの後ろが」
「ちょ、ちょっと!? 目標がかなり近付いてきてるじゃないのっ! リーオ! 早く興奮しなさいよ!!」
「すまん。さすがの俺もネコ柄じゃ、ちょっと……」
「リーオの阿呆ー!」
「にゃはは! ま、良っかぁ」
「…………ふむ、仕方がありません。私が出ましょう」
「お、おお……レノアが光輝いて見えるのだわ。それだけの自信があるのだわ?」
「えぇ。割と、セクシーです」
「……ゴクリ。全人類の未来が、貴方の下着にかかっているのだわ、頼むのだわ」
「はい。レノア、行きますッ……!」
「あーい。しっかり持っててねー。……んしょ…………あ、レノアてば軽いねー。アクロに比べて超楽ちん」
「ほっといてよ!」
「ふぅ……。ありがとうございます、アリエルさん。では………………め、めくりますよ?」
「リーオー、もう一度こっち向いてー」
「お、おう?」
「んしょ………………ぺらっとな」
「……うぉぅ!」「……んなっ!?」
「…………ど、どうですかリーオさんっ! 興奮しましたか! もっと見たいですか!?」
「あー…………レノア、あの、大変言いにくい事なんだが……」
「な、何ですか?」
「突然レノアが発光したせいで、よく分からなかった……」
「ど、どういう事ですか!? それじゃ、もう一度いきますよ…………ぺらり!」
「ぬぉっ……!」「眩し……っ!」
「何でそんな眩しがるんです! ……リーオさん、本当は私の下着なんて見たくないだけなんじゃないですかっ!?」
「そ、そんな事ないぞ。俺だって見れるパンティなら見てみたい……! って、俺は変態か! 違うって、急に光るんだ!」
「この不自然な発光具合……恐らく規制がかかっているわね」
「放送コードに引っかかるとか、貴方は一体どれだけ破廉恥な下着穿いているのだわ……」
「×××の部分が×××でいつでも×××出来る様な仕様に」
「ブパァ……!」
「付属の×××な形をしたアタッチメントを付けることにより、なんと×××も可能になるという代物です」
「んふふ……おいやめんふふ、俺の血がふふ……足りな……ぐっへっへ……!」
「もう良いのだわ! レノアはもう喋らなくて良いのだわ!」
「レノアー、×××って?」
「それはですね、むぐ」
「はいはーい、レノアちゃーん。卑猥なそのお口に極太南京錠でも掛けて少し自重しましょうねー!」
「むがむふ」
「しかし困ったわね。こうなったら、ソフラのパンツしか望みは無いわよ?」
「ぷはっ。ソフラさんの下着ですか……それはあまり期待出来ませんね」
「酷い言われようなのだわ」
「ソフラは今日もフンドシなの?」
「その言い方だと、ワタクシがいつもフンドシ穿いてるみたいに聞こえるから止めてほしいのだわ。というかアリエル! 貴方、何度も言っているけれど、これはフンドシって名称じゃないのだわ! いい加減覚えるのだわ!」
「ソフラのパンツがいつものフンドシであるかどうか以前の問題よ。ソフラってば高い所苦手だから、素直に登ってきてくれるとは思えないわ」
「そうですね……ソフラさんの下着がいつも通りフンドシだとしても、まず登ってきてもらわない事にはどうにもなりませんからね」
「ソフラ……お前いくら刀を使っているからって、パンティまでフンドシにしなくても……」
「だからッ、フンドシじゃないのだわ!」
「協力し合おうよ、ソフラ。このままじゃリーオが串刺しだよ? それにフンドシでも、リーオ悦ぶかもしれないよ?」
「さすがのリーオさんも、フンドシでは興奮しにくいんじゃないですかね」
「そうね。フンドシってどちらかというと笑いの感情が先に来そうよね……」
「まぁ、俺がフンドシで興奮出来るかどうかは実際に見てみるまで何とも言えないが……フンドシかぁ……うーん」
「いい加減フンドシネタ引っ張るのは止めてほしいのだわ! というか、そもそも何で作戦の要が下着になっているのだわ!?」
「うん。それに関してはアンタが言い出したんだけどね?」
「このフンドシ大作戦はちょっと難しいんじゃないか? パンティだけでそこまで興奮出来るとは到底思えん……」
「どうするの? とりあえず皆で全裸になる?」
「とりあえずって……ア、アタシは絶対に脱がないわよっ!!」
「それって上空から見たらかなりシュールな図になりますね」
「いや、今の状況も割とシュールだと思うわよ? 皆でパンツ見せつけてるとか、正気の沙汰じゃないわ」
「待て待て。俺は他の作戦を考えようと言っているだけであってだな……」
「た、確かに、一理あるのだわ! リーオを興奮させる以外の作戦について考えた方が良いかもしれないのだわ!」
「ちょっと待ってよ。それじゃ、アタシのパンツ見せ損じゃないのっ!」
「そうですね。私達だけ下着を見せたというのは釈然としないものがあります」
「全く問題無い気がするのだわ」
「んー……でもさ、リーオはソフラのフンドシ見たいよね?」
「いや、えっと……その質問に対して俺はどう答えたら良いんだ?」
「駄目だよリーオ。君が天から授かった、変態というキャラクター性を大切にしてあげてよ」
「あ、あぁ……すまん。俺、ソフラのフンドシ見たい! 超見たい! 見せてほしい! 頼むッ!」
「んなっ……!?」
「……」「……」「……」
「……なぁ、お前ら。俺を、駆除された害虫の死骸を直接見たくはないんだけど足で踏まない様に注意しないといけないから仕方なく視界の端で捕らえざるを得ないとでも言わんばかりの視線で見るのはやめてくれよ」
「直球だったね」
「いくら何でも今の発言には問題があります」
「そうね。これじゃあさすがのソフラも呆れ………………て? お? ……ちょいちょい二人とも、ちょっとソフラ見てみ」
「なぁに?」「何です?」
「ななななな何バカな事言ってるのだわ……そんなに頼まれたとしても、み、見せる訳、無いのだわ、バカバカしいっ……そ、それにこれはフンドシじゃないのだわ……見せないけど……フンドシじゃ、ないのだわっ……」
「ほら、ソフラってば照れてるわよ。案外効いてるみたい」
「ほんとだね」
「ふぅむ。本当に分かりやすい反応……………………あ、こんなのはどうでしょうか? アリエルさん、アクロさん。ちょっと耳を……」
「なぁに?」「ん?」
「ごにょ、ごにょ……」
「……ちょ、ちょっと? どうしたのだわ? 三人で何を内緒話しているのだわ?」
「ごにょごにょ………………で、もしソフラさんが乗って来なかったら、最終手段として実際にリーオさんに仕掛けるしか方法は無いんですけど……少なからず試してみる価値はあると思います」
「ふんふん、それならボクにも出来そうだよ」
「そうね、その作戦で行きましょ。きっと上手くいくわ」
「それじゃ、アリエルさん。準備お願いします」
「りょーかい。ちょっと待ってね…………今固定するから」
「……お、何だ? 皆こっち側に降りるのか?」
「あい、おっけー。これでリーオの居る通路側に降りられるよー。はやくはやくー」
「行きましょう、アクロさん」
「うん。……リ、リーオはあっち向いてなさいよねっ!」
「お前、今更そんな事言うのか……はいはい」
「えぇ……!? ちょ、ちょっとアリエル、待つのだわ! ワタクシは、その……置き去りなのだわ?」
「寂しいの? こっち来る?」
「べ、別に寂しくなんかないのだわ! 行かないのだわッ!」
「心配しなくても、ソフラが自力で登れる様にしておくからね。いつでも登って良いんだよ?」
「ひ、必要無いのだわっ!」
「よっと…………リーオさん、ちょっと良いですか?」
「ん? おう」
「ふぅ………………やっぱ地面は落ち着くわねー。パンツ覗かれる心配も無いし」
「ほいっとな…………あ、そうそうアクロ。さっきからずっとスカートめくれてるよ」
「……へ? って、うひゃあああっ!? …………ア、アンタねぇ、そういう事はもっと早く言いなさいよっ!」
「サッキカラズットスカートメクレテルヨ!!」
「何ベタなボケかましてるのよ! 早口っていう意味じゃなくて、タイミング的な意味の話をしているのよ!」
「大事な話だからよく聞いてアクロ」
「な、何よ……改まって」
「例えばファッションとして意図された見せパンなんて正直誰得でも無い、それは言うなれば自己満足の類に属するんだ。そういう意味では、意識せずに自然とめくれ上げっているスカートから可愛いネコさんパンツのチラリズムをやってのけたアクロはグッジョブと言わざるを得ない。そんな君にドジっ子属性ポイントを加算」
「どうでもいいわよ!」
「……ごにょ……とまぁ、こんな作戦です。分かりました?」
「……ふむふむ……それを繰り返せば良いんだな? 楽勝だ」
「タイミングは、まぁアリエルさんに続けていればほぼ問題ないかと思います」
「了解した」
「では皆さん。各自、指示通りにお願いします」
「おう」「え、えぇ」「はーい」
「コホン…………ソフラさーん! 大変残念な事ですが、もう牛さんがすぐそこまで来ていて時間がありません! 私達は最終手段を使ってリーオさんを興奮させる事にしますね!」
「なっ、何を言っているのだわ? 最終手段? 何をするつもりなのだわ!?」
「……そ、そんなの口で言えるわけないじゃないの! 察しなさいよ!」
「ソフラ。ボクがやれば出来る子だってこと知ってるよね! 焼き肉の為ならボク、何だってするからね!」
「アリエル……貴方、一体何を!?」
「さーさー、リーオさん服を脱ぎ脱ぎしましょうね。…………はーい、良くできましたー」
「思ったよりも男らしい体つきしてるわね、うん」
「んなっ……!? えっ!? ぬぎぬぎって……正気なのだわ!?」
「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」
「それでは今度は、アクロさんのリーサルウエポン解禁といきましょうか!」
「し、仕方ないわね! 今回だけなんだからねッ! 感謝しなさいよね!」
「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」
「……ななっ!? ちょ、ちょっとアクロ……貴方さっきまであんなに嫌がっていたというのに、まさか本当に脱ぐつもりなのだわ!?」
「ソフラ! アンタには悪いけど、アタシは本気よっ! ぬ、脱いでみせるわ!」
「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」
「アクロ……貴方……と、とんだ破廉恥娘なのだわっ!」
「はうぁ! ふ、ふんッ……! アンタはせいぜい壁の向こう側で吠えていれば良いわ!」
「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」
「…………。アクロは破廉恥娘なのだわー」
「うるさいわねっ!」
「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」
「……。アクロはおっぱいなのだわー」
「ちょっと! やめなさいよ!」
「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」
「アクロさん。これ、きっと罠です。反応しちゃ駄目です!」
「罠? どゆこと?」
「すごいすごーい。それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなことー」
「ふーん……もしかして……貴方、本当は脱がずにワタクシを壁の上に誘い込む作戦なのだわ?」
「ギクリン」
「すごいすごーい! それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなー」
「どうしたのだわ? さきほどから、アリエルとリーオの台詞がやけに棒読みだし同じ事しか言ってない気がするし、もしかしてもしかすると図星なのだわ?」
「ぐぬぬ……さ、さすがソフラさんですね、こちらの作戦をあっという間に見抜いてくるとは……というかアリエルさんとリーオさんはいくらなんでも機械的すぎます、少しくらいタイミング考えて下さい!」
「言われた通りにやったのに怒られたよ、リーオ」
「あぁ、理不尽な世の中だな……アリエル」
「ふふん! あまりにも滑稽な茶番だったのだわッ!」
「くぅぅぅぅ!! 良いわよ、分かったわよ! こうなったらやってやろうじゃないのっ!」
「すごいすごーい! それはやばいよ、やばいってー」
「や、やめろおまえら、そんな、そんなー」
「アリエルさんとリーオさんはもう黙ってて良いですから……って、あれ? アクロさん?」
「アンタ達! 目ん玉ひん剥いて、アタシの勇姿をとくとその目に刻み込むと良いわッ!」
「まだ続ける気なのだわ? 愚直なツンデレ娘じゃあるまいし、ワタクシはそんな手には引っかからな」
「ちょ……ア、アクロさん……まさか本気で!?」
「……そおおおおおおおおおおいっ! 脱ぎっ」
「や、やめ……ちょ!? おまっ!? ア、アクロ!? ……えぇ!? ブッパァァァぁぁぁぁいぇぇぇぇえええい……!!!」
「すご…………ふっわぁ……アクロのおっぱいすっごい美味しそうだねぇ! ……すっごい……すっごいよ! ちょうだい! それ、ちょうだいッ!」
「い、今のは何なのだわ……!? 一瞬、もの凄い量の赤い液体が間欠泉のごとく上空へと舞い上がったのだわ!?」
「くっ……何という破壊力ッ!! ……ソフラさんも薄々気付いているんじゃないですか? 今のは、リーオさんの鼻血ですよッ!」
「なッ!!?  ま、まさかアクロは本当に脱いだのだわ!? いや、あの子に限ってそんなバカな事……」
「アンタがあまりにも意地っ張りだから脱いでやったのよっ! もちろんブラは付けているけど、これこそ詰め物無しの天然物よッ!!」
「くぅぅ! 破廉恥! あまりにも破廉恥なのだわ!」
「むぅ。それにしても…………下着越しでも迫力がありますね……溢れ出す肉々しさというか何というか……思わずしゃぶりつきたくなるほどです。じゅるり」
「ちょ、ちょっと!? レノア、アンタ……目が本気過ぎるのよ!」
「あ、すいません。つい盛り上がってしまいました……というか、これってもうソフラさん誘い込む必要無いんじゃないですか?」
「た、確かにそうかもしれないわね。リーオは……」
「ぐっへっへ……まだだ、まだ足りねぇ……もっとだ! もっと俺に興奮を!」
「この変態馬鹿ニートッ! これ以上どうしろというのよ!」
「これほどの凶器を前にしてまだ足りないんですか……性への飽くなき探求と貪欲さ……もはや変態性が人間とは思えない次元まで達していますね。アクロさん、こうなったら……残念ながらトップレスしか方法はありません」
「そ、それは……さすがの私もノーサンキューよ」
「じゅる。……ねぇねぇ、アクロ? 一口だけでも食べさせてもらって良いかな? ボク、すごくお腹空いちゃって……」
「良いわけないでしょうがッ!」
「……ブモッ」
「ん? 今何か聞こえませんでした……?」
「そうかしら?」
「ブモオ」
「……ひぃぃ! たたた、大変ですよっ! 牛さんの先頭集団がいつの間にか直線上まで来てるじゃないですかッ!?」
「あら、アタシを追っかけていた時よりも大人し」
「だからっ、嗅覚情報と視覚情報が一致した時、最高速まで加速して凶暴化するんですって!」
「ピクン! ブモモ…………ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「うわあああ! もの凄い突進してきてるじゃないのおおおおお!!」
「そ、そうだ! アリエルさん! もしかして爆弾とか持ってませんか!?」
「アクロのおっぱい、スベスベで柔らかくて美味しそうだなぁ、じゅるる。お腹空いたなー」
「アリエルさぁーん!!!!!」
「ちょ、ちょっと……! 本当、どうするのよ!? リーオは本当に興奮してないの!?」
「駄目だ……まだだ……まだ足りない……!! いや、むしろ、それを揉ま」
「させる訳ないでしょうが! この、ド変態ニートッ!!」
「通常時のリーオさんは本当に役に立ちませんね……。わ、分かりました。間に合うかは分かりませんが、私が魔法で……」
「そうね! それが良いわ!」
「………………………………だ、駄目です! アクロさんのおっぱいが目に焼き付いて集中できませんッ!」
「レノアアアア!! ……と、とりあえずアタシが牽制攻撃仕掛けるから! アンタ達は壁の向こう側に逃げなさいよ!」
「駄目です! 一度凶暴化すると、目標を喰らい尽くすまで収まりません。私達がこの場で喰らい尽くされるか……周辺の街に被害が広まるか……どちらにしろ、ここで仕留めないといけないんです!」
「そ、そんな……! じゃあやっぱりトップレス解禁するしか方法は無いっていうの……!?」
「いえ、私が全裸になりますッ! それで、リーオさんにご奉仕しますッ!」
「駄目よ! それは絵的にも危険だから絶対駄目よ!」
「……ちょ、ちょおおおおっと……待つのだわ!! た、高ッ……! ふるるっ」
「そ、その声は……まさか!?」
「ソ、ソフラさんが、しゃがみ込みながらも壁の上にッ!」
「血出しすぎたせいで頭がクラクラするぜ……って…………ソ、ソフラ。お前まで壁の上に登ったのか……」
「……ソフラ、よく登ったわねっ! でも、それじゃ見えないわ……早いとこスカートを捲くるのよっ!」
「くぅっ……分かっているのだわッ! ふるるっ ペラリ」
「おおお!? お前、それは……!」
「リリリリーオ! よ、よく見るのだわッ! ワタクシはフンドシなんて穿いていないのだわっ!! ふるっ」
「あ、ソフラやっぱり今日もフンドシじゃーん」
「えっと……いやでも、あれって……スパッツよね?」
「えぇ。アリエルさんの言うフンドシって、スパッツの事だったんですね……」
「あはは。ちがうよー、あれは異国のフンドシなんだってー」
「なるほど、スパッツか! ナイスチョイスだぞ、ソフラ! だが……何だ、何かが足りないっ!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「うわああああ……! アリエルさーん! 正気に戻ったなら、急いで爆弾の準備をッ!」
「はーい。爆弾あったかなー? お、あったあった……」
「アクロさん、とりあえず牽制攻撃をお願いしますッ!」
「了解よ! アタシの強化パチンコ、思う存分喰らいなさいよねッ! せいッ」
「ビュンッ…………カツン」
「ブモッ? ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「くっ……駄目ね! 全然怯まないわよ!! アリエール!」
「ほいほーい。けっこう危ない奴投げるから、きをつけてねーー。そぉれっ!」
「ヒュウゥ………………カチ、チュドーン!!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
「わーお……牛さんには爆弾効かないみたいだねぇ……」
「二人は引き続き攻撃を続行してください!」
「了解!」「はーい」
「早くするのだわ……ここ、高すぎて怖いのだわっ! ふるるっ」
「やはり、リーオさんはソフラさんのスパッツですら興奮出来ない身体になってしまっているんですね……。こうなったらもう私がご奉仕するしか……」
「いや、待て。……ソフラ! しゃがまれると、視認出来る範囲が狭いっ! しゃがみ込まずに、立つんだ!」
「た、立つ…………うっく!? た、高いのだわ! 怖いのだわ! ふるるるっ」
「立った! ソフラさんが立ちましたよ! ……こ、これならリーオさんにも丸見えですっ!」
「いや、まだだ……! ソフラ! 片手じゃ駄目だ! 両手だ! 両手でスカートの裾を持ち上げろ!」
「……こ、こうなのだわ……!? ふるっ」 
「俺から視線を反らさずに左斜下、二百二十五度方向へ顔を俯けてくれッ!」
「リーオさん……それ、何のこだわりなんですか……?」
「もうっ! リーオのバカッ! ポーズの注文なんて良いから! 早いとこ興奮するのだわッ!!
「駄目だ! 悔しそうな表情で、下唇噛みつつやるんだ! さぁ早くッ!」
「くっ……悔しいのだわ、こんな屈辱受けたのは初めてなのだわ……! ふるるっ」
「よしっ、良いぞ…………そのままだ! で、……お前……スパッツの下は……穿いて、いるのか?」
「そ、その質問に意味はあるんですか!? リーオさんが知りたいだけなんじゃないですかッ!」
「断じて違うっ! 最重要項目だ!」
「し、しかしですね……そんなの穿いているに決まって」
「…………。 ふるるっ」
「えっ。そんなまさか……ソフラ、さん……?」
「わわっ、みんなー! 牛さん来ちゃうよぅ!」
「レノア! 時間的にそろそろ限界よ! こうなったら絵的に危険とかどうでも良いわッ! 禁断の遊戯解禁して良いから、早くリーオをッ!」
「ぇえ!? いや、でも……い、いざやるとなると……は、恥ずかしぃ……です……」
「レノアアアアア……!」
「頼む! 教えてくれ! ソフラッ! スパッツの下だ! パンティ……パンティは穿いているのか!」
「…………。 ふるっ」
「俺を……リーオパンテラインを信じろ! ソフラ!」
「……ぅぅぅ…………!!」
「らめらめぇぇ! 牛さん、きちゃうっ! きちゃうのおおお!!!!」
「アリエルさん、ちょっと落ち着いて下さい!」
「駄目よッ! もう間に合わないッ!」
「ソフラクーペウィルキンソンッ!! 言ええええええええ!! お前のパンティは何色だあああああああああああああああ!!!!!!」
「くっ……………………は、穿いていないのだわッ! スパッツ直穿きなのだわああああああああああああ!!!!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオン!!!」
「ひゃっほう!! よく言った!」
「ブモオオオオオオオオオオ!!!!!! グシャッ……ォォォ……ォ……」
「……リ、リーオさん……今のは、もしかして」
「な、何よ……まさか素手でやったの?」
「………………ふぅ。待たせた」
「へ、変態モードなのだわッ! ふるるるっ」
「ブモオオオオオオオオオオ!!!!!! ブモオオオオオオオオオオ!!!!!! グシャッ……ォォォ……ォ……」
「んで、あと何頭狩れば良い?」

▲モドル

第二話
「焼肉パーティ 酒場にて」

「ぅっぷす……あ、レノアが居たー……って、アンタ、随分飲んでるわね」
「ぐびぐび……あぁ、アクロさんですか。えへへ、これすごく美味しくって……ぐび」
「美味しいって、ただの炭酸水じゃない。しかも味無い奴でしょ、それ?」
「ふくく。……このシュワシュワ感が楽しめないようでは、アクロさんもまだまだです」
「はいはい。ねぇ、ちょっと酒場の外に出て風に当たらない?」
「良いですよー」
「…………」
「…………」
「ふぅ……風は生温いけど、無いよりはマシね。心地良いわ……」
「えぇ。中と違って外は静かですねぇ……」
「いやー……でも、見つかって良かったわぁ。この焼肉パーティ、人が多すぎるから探すの大変だったわよー……」
「凄い人数ですよね。まさかこんなに人が集まるとは思いませんでした」
「でもまぁ、あれだけの牛狩ったんだから、話聞いてやって来た人達がお腹一杯で帰るには十分過ぎるわよ……ぅぷ」
「その様子だと、アクロさんはお肉たくさん食べたんですか?」
「勿論よ……ぅぷ……というか、リーオにパンツ見せたんだもん……これくらい食べなくちゃ元が取れないわ。……でも、しばらくはお肉食べなくて良いわね……」
「へぇ。……でも、そんなに食べて大丈夫ですか?」
「大丈夫、リバースだけはしない自信があるわ……」
「いえ、リバースがどうとかではなく……ここ最近、アクロさんが珍しく早起きして早朝ランニングに勤しんでいましたので、もしかしたらダイエットでもしているのかなーと……」
「………………ぁ」
「もしかして、忘れてました?」
「………………う、うん。でも大丈夫。ちょっと明日からのランニング距離を三倍くらい増やせば良いだけの話よ……どうとでもなるわ……そうよ……大丈夫。大丈夫よ、アクロ……美味しい物を食べて、なおかつ目標体重まで落とす。それがアタシのジャスティス……うん……んっぷ」
「なんかすいません」
「……気にしないで良いのよ。そう言うレノアはお肉食べたの?」
「実を言うと、あんまり食べてないです。だから炭酸水ばかり飲んでいたんですけど……」
「ダイエット」
「?」
「ではないわね。良いわ、分かってるのよ。そんな可愛く小首傾げられても困るわ」
「アクロさん、あまり私のお腹を凝視しないで下さい。照れちゃいます」
「照れられても困るわ。本当アンタは可愛いわね、もう……ぅぷ」
「えへへ」
「もしかして、リーオが牛狩ってる姿見ちゃったから?」
「まぁ……アレは確かに、ショッキング映像百選レベルのグロシーンでしたけど、妖精族にとっては屠殺の現場目撃なんて日常茶飯事ですので……。それよりも、調味料が強過ぎて……」
「味付かー。保存が効くようにって、真っ先に塩漬けにしてたもんねぇ」
「はい。やっぱり味が濃すぎるものは、あまり多く食べられないです……」
「アタシなんかはちょうど良い味付だと思ってたけど、やっぱ妖精族って薄味好きなのね」
「あ……でも、お肉自体は本当に柔らかくて美味しかったです。ソフラさんの言っていた事は本当だったんですね」
「うん、確かに美味しかったわよね。あのソフラの言葉は、てっきり燃料切れのアリエルを動かすためだけの嘘かと思ってたんだけど」
「私もです」
「……それにしてもアリエルは可哀想ね……あんなにお肉食べたがっていたのに」
「それなら心配ありません。塩漬けのお肉は沢山貰ったので、旅の途中でも食べられますよ」
「ふふっ、それならあの子も喜ぶわね。それに、味付無しで焼くだけの簡単調理なら、レノアでも出来るもんね?」
「……うっぐ……ま、まぁそうですねー。お肉を焼くだけなら、料理の概念が無い妖精族ですら出来ますから、この前のアクロさんみたいに食材を真っ黒焦げにしたりはしないですねー。うふふ」
「ふぐっ…………あ、あれは……たまたま焦げただけよ」
「たまたまと言いながら、焼き料理の時は毎回焦がしている印象がありますけど……」
「そ、そんな事ッ……………………あるかもしれないわね」
「毎度、リーオさんには迷惑をかけてしまいますよね……。パーティ内でまともに料理出来るのってリーオさんだけですから……」
「はぁ……少しは料理の勉強でもしようかしら……」
「そうですね。料理が美味しければ、きっと喜んでくれますよね」
「……喜ぶ、かしら」
「えぇ、きっと喜びますよ」
「って、違うわよ! ア、アタシは別に、リーオを喜ばせる為に料理を作るとか言っているんじゃないわよ!?」
「パーティの皆さんの事を想って言ったんですよね」
「あー……そう! うん、そうよ! ……レノア、今のは聞かなかった事にしてちょうだい」
「うふふ」
「……レノア、アクロー。お待たせたしたのだわー」
「あら、ソフラさん。お疲れ様です」
「お、お疲れさまー、ソフラ。依頼の報酬は、しっかりと受け取れたのかしら?」
「えぇ、思ったよりもスムーズだったのだわ……って、アクロ。貴方、顔が赤いのだわ。酔っているのだわ?」
「気のせいよっ。それに、アタシは未成年だからミルクしか飲んでないわ」
「……」「……」
「な、何よ……その、大安売りのバーゲンセールで己の欲望のみに従って醜く争い合う客達を、あーやってるやってるって内心思いながらも絶対に口には出さずニコニコ笑顔で遠くから眺めている店員の様な眼差しは……」
「アクロさん、まだ成長する気ですか……」
「いっそのことそのまま転職して、乳牛にでも何でもなったら良いのだわ」
「アタシはミルクが好きなだけなの!」
「……は、白濁の液体が好きだなんて、そんな恥ずかしいことよく言えますねッ!」
「ちょ……何言ってんのよ!? もしかして酔ってんの!?」
「ほんのり」
「あぁ、レノアはお酒が飲める年齢なのだわ?」
「はい。成人はとっくに過ぎていますので、飲もうと思えば飲めますね」
「でも、この子ついさっきまで炭酸水グビグビやってただ……んひぁッ…………!? アンタね、さりげないスキンシップと思いきや、本気でアタシを堕としにかかるのやめなさいよね!」
「アクロさん……私、ちょっと酔っちゃったかもっ」
「ああもうっ! 可愛いから許すッ!」
「そういえば、アリエルも炭酸水飲むと簡単に酔うのだわ」
「へぇ。アリエルさんが酔った姿、是非見てみたいですね」
「危険なのだわ」
「ふーん……もしかして炭酸で酔う人って珍しくないのかしら?」
「まぁ私はただ酔ったフリしてアクロさんのおっぱい触りたかっただけですけどね」
「何処のオッサンよ!」
「…………ところで、さっきまで二人で何の話をしていたのだわ?」
「……へっ? あー、えっとー……な、何の話だっけ? あはははっ。揉まれすぎたせいで記憶が飛んじゃったぁ、あばばー」
「……貴方、やっぱり酔っているのだわ?」
「しつこいわね。酔ってないってば」
「リーオさんが料理上手という話をしてたんですよ。ね? アクロさん」
「そ、そうそう、そうなのよ。……だから、アタシ達も料理の勉強しようかなーって」
「ふーん……それは良い心掛けなのだわ……料理……ふーん……」
「あ、そうだ! なんなら、アンタも一緒に料理の勉強する?」
「……ふぇ!? いや、べ、別に料理に興味なんて無いのだわ……! それに、ワタクシは二人と違って、勉強なんてしなくても料理くらい出来るのだわっ!」
「でもソフラってば包丁の使い方まるっきり駄目じゃないの。包丁使う度に指切って怪我するし……アンタの包丁の持ち方見てると、こっちまでハラハラするのよ」
「確かに、ソフラさんが作る料理って血の味がしますよね」
「んなっ!? こ、これでも少しはッ………………いえ、何でもないのだわ」
「ソフラさん、刀の扱いなら得意ですから、いっそのこと食材も刀で切ってみれば案外上手くいくかもしれませんね」
「離乳食か流動食にしかならないわよ、それ」
「貴重な食材を得体の知れない真っ黒焦げの塊に変化させる程度の能力よりはマシなのだわ」
「……ふぐぐっ。毎度、食材が原形を留めていないスープを作るアンタに言われる筋合いはないわよッ」
「食べられる料理なら問題無いのだわ!」
「ま、まぁまぁ二人とも、そんな事で言い合っていても料理の腕は上達しませんよ」
「それもそうね」「そうなのだわ」
「ソフラさんの様に、練習あるのみです」
「その通りなのだわ。ワタクシの様に…………って、ん?」
「えっ、何? ソフラってば、料理の練習してるの?」
「あれ、気付きませんでした? ソフラさん、夜中に包丁で食材切る練習してるんですよ?」
「な、何のことなのだわー……レノアの言っている事が、さっぱり分からないのだわー……」
「ふーん……。食材の減りがやけに早いと思ったら、アリエルがつまみ食いしている訳じゃなかったのね?」
「まぁ、切り刻んだ食材をスープにして、アリエルさんに食べさせていたみたいですけど」
「なるほど。練習した証拠を消すためにアリエルにご馳走すると。底なしの胃袋を共生関係に持ち込むとは、考えたわねソフラ」
「……くっ。まさかそこまでバレているとは思わなかったのだわ。アリエルには口止めしておいたのにっ……!」
「ソフラさんの手指に装着された絆創膏の数が毎朝の様に増加している事と、ここ最近の食材の尋常ならざる消費っぷりを考えると、この推論も割と簡単に導かれるものかと」
「確かに、アンタが刀の稽古でそんなに怪我する訳ないものね。ソフラ、包丁の持ち方から教えてあげるから、抜け駆けは無しよ」
「分かったのだわ……今度から皆で練習するのだわ…………」
「それなら、アリエルさんにも協力してもらいましょうよ」
「そうね。あの子には引き続き証拠隠滅に励んでもらわないとね」
「ん……そういえば、アリエルは来ていないのだわ?」
「あぁー……アリエルならあのまま泣き疲れて、今は宿屋でグッスリと寝ているわよ。あれほど焼き肉食べたがっていたのに、どういう事なの? あの子ってば、リーオが牛を狩りだした途端、ガタガタ震えながら泣いてたじゃないの……やっぱり、ああいうグロが苦手なの?」
「ソフラさんなら、何か理由知っているんじゃないですか?」
「……きっと、素手で牛の首を刈るリーオの姿を見て、子供の頃母親にこっぴどく叱られたトラウマが蘇ったのだわ……」
「スプラッタ映画も真っ青な阿鼻叫喚地獄絵図の様なあの場面と、子供の頃母親に叱られた思い出がどう繋がるのよ……」
「それに関しても、機会がある時に追々話していくのだわ。アリエルの厨二病の件についても話さないといけないし、過去編は長いのだわ」
「過去編……よく分からないけど、アリエルも色々と抱えているのね……」
「なのだわー。ところで………………えっと……」
「何よ、キョロキョロしちゃって。トイレなら酒場から入って右奥だけど?」
「ち、違うのだわっ……!」
「リーオさんですか?」
「………………コクン」
「うわぁ……何しおらしくなっちゃってんのよ……調子狂うわね……」
「リーオさんなら酒場に顔出してから、すぐ宿屋に戻ったみたいです」
「へぇ、解散してからは見かけなかったけど、一応リーオも酒場に来てたのね?」
「えぇ。焼き肉と飲み物を持ち帰ってたみたいですねー。宿屋でゆっくり食べるつもりなんじゃないですか?」
「ふ、ふーん……人混み嫌いなリーオの考えそうな事なのだわー……ふーん……」
「ソフラさん、どんまいですっ」
「べ、別に残念だったなんて思っていないのだわっ! ワタクシ達も、とっととお肉を頂くのだわっ!」
「いってらっしゃい。アタシはもうお腹一杯よ……やっと落ち着いてきたとこなの」
「私もです」
「…………くっ! お肉と飲み物持ってくるから、一緒に食べるのだわっ! 待っててほしいのだわっ!」
「はいはい、言われなくても待ってるわよ。でも、あんまり遅いと先に帰るからね」
「んなっ!? それはあまりにも薄情なのだわ!」
「もうアクロさんてば意地悪ですね……。大丈夫ですよ、ソフラさん。勝手に帰ったりしないから安心して下さい」
「分かったのだわ…………い、行ってくるのだわーっ!!」
「………………おー、行った行った。急いでる急いでる」
「…………あ、コッチの様子をチラチラ窺ってますよ」
「本当だ、まさか本気でアタシ達が帰っちゃうとでも思ってるのかしら? 手振ってやろ、おーいっ」
「あはは。恥ずかしそうに顔背けましたよ」
「強がってるけど、ソフラも案外寂しがり屋よねぇ」
「ですねぇ」
「…………ん、そうだ。こんな事レノアにしか相談出来ないだけどさー」
「何ですか改まって……」
「えっと……ぅぐ……そんな真正面から見つめられると、ちょっと恥ずかしいわね……」
「あら。もしかしてもしかすると、愛の告白ですか?」
「違うわ」
「そう、ですか……」
「そんなに落ち込まれても、それはそれで反応に困るんだけどなぁ……」
「冗談です。それで、言い忘れた事って何ですか?」
「えっとね……アタシさ、リーオを興奮させるために服脱いだじゃない?」
「あー……脱ぎましたねぇ。あの時は、まさか本当に脱ぐとは思っていなかったので、すごく驚きました」
「うん。自分でも驚いたわ…………だけど結局、リーオは変態モードにならなかったでしょ」
「ま、まぁ……確かに。残念ながら刺激が足りなかったみたいですね……」
「そりゃあ、アタシもさすがに揉ませる訳にはいかなかったけどさぁ……ソフラには色々とポーズの注文してたらしいじゃないの」
「えぇ。リーオさんにとってのベストアングルになるよう細かい指示を出して、最終的にはソフラさんがスパッツ直穿きだという事実を知ったところでフィニッシュでしたね」
「そうよ、問題はそこなのよ。リーオは、アタシのおっぱいよりもソフラのスパッツで興奮したのかと思うと、モヤモヤするっていうか……何となく釈然としないものがあるのよねぇ……」
「結局アクロさんは、どうしたいんですか? リーオさんを興奮させたいんですか?」
「いや、どうせ見せるなら……そりゃあ……ねぇ……?」
「ほほう。まぁ………………これはあくまで私の憶測なので、正しいかどうかは不明なのですが……」
「うん?」
「リーオさんて単純に視覚で訴えかけるよりも、頭の中で勝手に妄想させた方が興奮の度合いが高いと思うんですよ」
「それって、ただ単に見せるだけじゃ駄目ってこと?」
「ですね。簡単に見せてしまうよりは、見えそうで見えないという状況を作ってあげた方がより効果的だと思います」
「な、なるほどねぇ」
「あと、今回の件でやっと納得出来たのが、シチュエーションの重要性ですね」
「シチュエーション……?」
「リーオさんが変態モードに移行するには、より自分好みのシチュエーションを妄想出来る環境が必要なんです……これが、どういうことか分かりますか?」
「よ、よく分からないわ」
「……普段は意地っ張りな少女が、スカートたくし上げてスパッツを見せつけながら悔しそうな顔で、パンツ穿いてませんスパッツ直穿きですって白状するんですよ……? 私ですら、その後の二人が一体何をするつもりなのか簡単に想像することが出来るんですから、リーオさんの脳内で繰り広げられていた妄想劇では、それはもう言葉では表現出来ないほどにドピンクで破廉恥なムググ」
「オクチにチャーック……!!」
「むぐ……プハッ…………コホン。ともあれ、妄想力の逞しいリーオさんにとっては、そういうシチュエーションを想起させる様な環境で妄想する事の方が重要みたいです」
「そ、そう……すごく参考になったわ」
「もし今度リーオさんを興奮させる必要がある時は、アクロさんが地面に女の子座りで座りながら涙目で下からジッと見つめてあげると良いと思います。手ブラだとさらに良いですね」
「てぶらって……?」
「こんな風に、ブラではなく手で隠す感じで……」
「そ、そんなこと出来ないわよッ!」
「でも……いざという時は、やるんですよね?」
「やらないわよッ!」
「レノアァア! アクロォオ!」
「うわぁ!?」「ひゃあ!?」
「た、大変なのだわああっ!!!」
「ちょ、ちょっとソフラ……急に叫ばないでよね! というか、アンタ……肉も飲み物も持ってきてないじゃない。
帰るって言ったのは冗談だから、ゆっくり選んできなさいよ、まったく……」
「それどころじゃないのだわ! 二人とも、急いで宿屋に戻るのだわッ!」
「どうしたんですか? そんなに慌てて……」
「は、話は宿屋に戻りながらするのだわ……ッ!」
「あっ。待ちなさいよっ!」
「走るんですかー……」
「で、一体どうしたのよ……ッふぅ……っうぷ……」
「……こ、この焼き肉パーティ……飲み物レパートリーが少なすぎなのだわ……、お酒か……ミ、ミルクか炭酸系しか、用意、されていないのだわ……!」
「は? だから、何よ……お酒は論外だとしても……ミルクがあれば十分じゃないの……」
「ぜぇ…………なるほど…………そ、それは……ぜぃ……ちょっ……不味い、ですね……」
「不味くないわよ、ミルクは美味しいわよ!」
「ひぃはぁ……う、うるさいのだわ! 乳牛は……黙って、いるのだわ……!」
「ひどい!? つーかアンタ、ヘロヘロじゃないの……体力不足にも程があるわよ。こちとら、お腹一杯の状態で走らされてるんだからね……んぷっ……」
「……ちょ、ちょっと……無理し過ぎたのだわ……少し、歩くのだわ……はぁ……ふぅ」
「はぁ……はぁ…………つまり、ソフラさんが言いたいのは……リーオさんが、宿屋に炭酸系の飲み物を持ち帰ったんじゃないか、ということですね? ぜぇ……」
「そう、なのだわッ……もしアリエルが目覚めて、一緒に焼き肉食べようってなったら……きっとリーオは、何も知らずに……アリエルへ炭酸系の飲み物を振る舞うのだわ……由々しき事態なのだわ……! 」
「…………ぅっぷす……何がよ……?」
「言ったはずなのだわ……ぜはぁ……アリエルは、炭酸系で簡単に、酔うのだわ……」
「そういや言ってたわね……アリエルって、酔うとどうなるの?」
「その場で急に倒れて、そのまま眠るのだわ……」
「何よ……問題無いじゃない……走って損したわ……ぅぷ。大丈夫、いくらリーオでも……寝ているアリエルを襲うなんて真似はしないわよ……全く心配性なんだから……」
「ぜぇ……待って下さい……ソフラさんがこれだけ慌てているという事は……何か、あるんじゃないですか?」
「倒れた後……ちょっと時間が経ってから、目覚めるのだわ……それから……それから……」
「……それから、何よ?」
「ど、どうなるんですか?」
「……いつも以上にボーっとした様子で、身体が疼くとか言い出すのだわ……それで、その……この前酔った時は、身体を押し付けてきて……この辺りを、ワタクシの太腿に擦り付」
「ソフラ、レノア……全力で走るわよッ!」
「えぇ、急ぎましょう! そんな面白……じゃない、えぇと……まぁ良いです、とにかく見逃せませんッ!」
「あっ!? ま、待つのだわ二人共ッ! 置いていかないでほしいのだわ!!」

▲モドル

第三話
「焼肉パーティ 宿屋にて」

「ふぅ……やっぱ人混みは苦手だな。あんな人多いとこで落ち着いて飯なんか食えるかよ」
「すぅすぅ」
「あれ……何だよ、アリエルが寝てる……つか、そういやアイツらと部屋一緒だったな……まぁどうせ部屋の隅っこで寝るし別に関係な……ん? 待てよ…………ひぃ、ふぅ、みぃ、よ……いつ……五つ?」
「すぅ」
「そんな馬鹿な……、ベッドが……五つある、だと……?」
「すぅ……むにゃ」
「ど、どういう事だ! 普段は、節約なのだわとか言われて、部屋の中にすら入れてもらえない万年馬小屋生活の俺みたいな人間が……部屋の中に入れてもらえるどころか、ベッドまで用意されているとは……! ソフラ……アイツ、天変地異で人類を滅ぼすつもりかっ……!! くそうっ!」
「んぅ…………誰か、居るの?」
「おう、すまんアリエル。起こしちまったか……」
「ん……なんだ、リーオかぁ」
「お前、焼肉パーティは行ってなかったのか? てっきり喜んで肉食べまくってるのかと思ったのに」
「ふぇ? う、うん…………ちょっと疲れちゃったみたい……」
「ふーん……」
(こんなに目真っ赤にして、もしかして泣いてたのか?)
「でも……ぐぐぅ…………今すごく後悔してるよ。お腹空いちゃって……」
「そっか。なら、ちょうど良かったな! そんなお前には、ジャジャーン!」
「スンスン……こ、この食欲をそそる香りは……!!」
「食べ放題って訳にはいかないけどさ、肉持ってきたから、一緒に食べようぜ?」
「リーオっ! ボク、リーオのこと大好はむっモグモグモグ……ごっくん。ぱあああああああ」
「どうだ。旨いか?」
「うんっ! リーオ先生、これ、すごく美味しいです! もっと食べて良ムグムグ」
「沢山持ってきたからな、好きなだけ食えよ」
「ぱああああああ」
「お前って本当、幸せそうに食うよなぁ……見てるこっちまで嬉しくなる」
「? ムグムグ」
「ん、いや何でもないよ。俺の人混み嫌いもたまには役に立つもんだ、どれどれ……ムシャ……モグモグ……」
「はむっ! ムグムグムグっ」
「あ、本当だ。すげぇ旨い……。冷めているにも関わらず、噛む度に溢れ出る良質な肉汁……なんたるジューシーな肉だ……。そしてこの柔らかさ。ただ柔らかいだけでなく、しっかりとした噛みごたえを残しながらも、徐々に口の中でホロホロッと崩れていく。いや、それだけじゃないな……確かに肉は最高級品のようだが、ただ単純に何も考えず焼いただけではこうはならない……この絶妙な焼き加減、まさに職人の技巧だ。……肉の柔らかさを損なわせず、なおかつジューシーな肉汁を肉の中に閉じ込める、この肉にとって最もベストな瞬間より少しだけ早く火から取り出し、余熱での調理によって最高の状態になるように計算して提供されている。恐らく、提供された瞬間から口に運んで、口に入れる瞬間までの十秒がゴールデンタイム、一皿を食べきるまでの五分間がシルバータイム。いや……だが、あの人混みがネックだ。酒場の焼き肉パーティでは、少なくとも食べるまでに十秒以上は経ってしまい、余分な余熱調理が進んでしまう。多くの人がそんな事などつゆ知らず、ゴールデンタイム内で肉を味わえる人間はほとんど居ないだろう。惜しい、実に惜しい事だ! だが十秒以上の猶予を持たせる様に焼き加減を調節してしまっては、この肉が発揮出来るベストな状態には至る事は不可能だ。それならばシルバータイムで食べさせる事も厭わないということか職人ッ! くそうっ! どうせ食べ放題のパーティだし、肉も適当に焼いただけなんだろうと高を括っていたが、こんな腕の良い職人が本気を出して焼き肉焼いていると知っていたら、持ち帰って宿屋で食べるなんて職人に対して失礼かつ愚かな真似はしなかったのにっ! 大嫌いな人混みを我慢して、ゴールデンタイムで肉が味わえる様に最大限の努力をしたのにッ!」
「もぐもぐごっくん」
「……でもまぁ」
「ぱあああああああ」
「……この笑顔見られただけでも良しとするか」
「むぐ?」
「何でもねぇよ。それにしても……街の酒場にこれほど腕の良い職人が眠っているなんて思わなかったぜ。ちょっと明日にでも様子を見に行って、職人の本気料理でも食べてみるか…………ん、そうだ。アリエル」
「ん?」
「明日の昼、飯でも食いに行かないか? 旨い店に心当たりがあるんだが」
「うんっ! 行くー!」
「おぉ、そうか。よしよし、んじゃ明日な」
「わぁいムグムグ」
「モグモグモグ…………あぁ、そういや飲み物も貰ってきたんだ、ほれっアリエル」
「ほいほいっ…………て、ミルク?」
「お前ら、ミルクの話してたろ。飲みたかったのかなーと思ってさ」
「焼き肉に……ミルク…………コキュコキュ……」
「俺は炭酸水だ、ぷしゅッ……ゴクゴクぷはぁ」
「むぅ………………」
「モグモグごっくん…………ゴクゴクぷはぁ! 最高じゃないか……」
「……リーオ」
「ん? …………おい、なんだよ不服そうな顔して。ミルク嫌いだったか?」
「べつに嫌いじゃないけど……焼き肉といったらやっぱ炭酸だなって、お父さん言ってた」
「……そうなのか……でも悪い、炭酸水これしか無いんだよ……」
「じゃあ……それで良いから、ちょうだい?」
「えっ……いや、しかしだなぁ……」
「焼き肉と一緒に味わってみたいのー。リーオー、ねー……」
「んお……そんな可愛くおねだりされたら、仕方ねぇな……ほれ」
「ありがとー。じゃあ、このミルクと交換ねっ」
「お、おう……交換、か」
「わぁい! わくわく。モグモグモグごっくん……ゴキュゴキュゴキュゴキュ」
「……ごくり………………コキュ」
「ぷはぁああっ」
「…………どうだ、やっぱ焼き肉には炭酸か?」
「うんっ! もうねっ、最ッ高の気分だよおおお」
「そか、そりゃ何よりだ、うん…………モグモグモグごっくん」
「ねぇ…………リーオ?」
「ん?」
「これって、間チュー…………」
「……ブフッ! お前な……せっかく言わないでおいたのに、そういう事……って、アリエル? どうした?」
「…………」
「は、反応が無い……まさかこいつ……」
「……すやぁ」
「……腹一杯で眠るとか本当子供じゃねぇか…………んじゃパーティはお開きだな。片付けっか……」
「すやすや」
「……………………ふむ、まぁこんなもんか……おーい、アリエル。眠るならベッドで眠れー」
「すやすやすや」
「駄目か……仕方ねぇな。ベッドまで運んでやろう…………よっこいせ…………ッ!?」
(軽っ。それに、柔らかくて良い匂いがするぅ!)
「……おっと、いかんいかん……トリップしかけた……」
「むにゃむにゃ」
「……ぬお!?」
(む、胸元が開いてて目に毒すぎるものがチラチラと……しかも、こいつペタン子だと思ってたのに、一応それなりにあるし……意識しちまうじぇねぇか……)
「くそうっ」
「むにゃ」
「…………ふう。危ないところだった…………俺も大人しく寝よう……」
「すぅすぅ…………」
「…………ふぁ……久々のベッドだ。今夜は気持ち良く眠れ……………………ぐぅ」
「すぅすぅ」
「ぐぅー……」

▲モドル

第四話
「それでも俺はやって(ry」

「ぐぅー…………んごッ!? な、なんだ? 敵襲かッ…………!」
「リーオー」
「んぁ、なんだ。アリエルか…………って、ちょっと待て。お前なんでそんな格好してんだよ」
「んふふ。あのねぇ、よくわかんないんだけど、身体が火照ってしょうがないから脱いじゃったのー」
「な、なるほど……身体が火照ったなら、まぁ脱いでもしょうがないな。うん。お前が下着姿である理由は理解した。で……俺の足と腕がベッドに固定されている理由について、お前が知っていることを洗いざらい全て話してくれ」
「えっとねぇ、よくわかんないんだけど、ボクのここがね……ムズムズして疼くの……だからリーオが暴れないように、縄で固定しておいたの……」
「話の繋がり方が全くもって理解出来ないんだが、無防備な俺の腹に跨ってお前は一体何をするつもり…………ふぉっ!? おいッ、待……ふぉおおおいッ!」
「こう、やってねー、リーオのお腹でコスコスしてー、んぅッ…………えへへ、本当今日は暑いねぇ……もう一枚脱いじゃおうかな……んふ……」
「ま、待てアリエルッ! お前、それ以上何を脱ぐつもりだ! その下着の下に何か着けている訳じゃないんだよな、それ脱いだらお前上半身裸だよな、うん、そうですよね。いや待て、それは倫理的に不味ぶばあああああッ!」
「もうっ、リーオったらまた鼻血出して、しょうがないんだからぁ。ボクが拭いてあげるから、ジッとしててねー……」
「んぶっ! お前その姿勢で近付いたら俺の顔におっぱぶばああああああああ!」
「わぁ! すごいようっ、リーオったらこんなにいっぱい出しちゃって……たくさん溜まってたんだね? それに、すごく熱くて、ボクなんだか興奮してきたかも」
「ぅぐ……そんなとろけそうな表情で俺を見るな…………もう…………これ以上の刺激は……俺にとって死の危険ふぉおおい! ちょ……やめ……そんなに擦り付けないでぇええええ! こ、これ以上はマジでヤバいからぁあ!」
「むーん……やっぱり布越しより直接の方が良いかなぁ? どう思う、リーオ?」
「ひょ!? な、何の話でしょうか……?」
「何の話って……言わなくても分かるでしょ。ボクのここ、こんなになってるんだよ? 脱いだ方が良いよね、このままだとグショグショになっちゃうもんね?」
「待て、頼むからそれは待ってくれ! 色々と危うい! 主に登場人物の年齢設定的な意味で!」
「もう……リーオったら大袈裟なんだから※この物語に登場する人物は全て18歳以上だよお兄ちゃん、って言っておけば大丈夫だよ」
「アリエル、残念ながら最近は規制が厳しいからそんな決まり文句では済まない場合もあるんだ。ってそんな事はどうでも良いから、脱ぐなよ! 絶対脱ぐなよ!?」
「んしょんしょ」
「うわぁぁ! お前本気かよ!?」
「……あー。目瞑っちゃ駄目だよぅ……リーオー……ねぇー」
「駄目だ、そういうのは順序を守ってだな!」
「えー……? チューしたいの?」
「んなっ!?」
「さっきは間接チューだったもんねぇ。リーオ的にはやっぱ直接の方が良かったの?」
「違う! そういう事を言っているのではなくて!」
「んー……はむ」
「んむー! むー……! む……ぅ」
「レロ……チュパ」
「……ンチュ」
「チュポ……んはぁ……」
「…………はぁはぁ………………うっ」
「えへへ……キス、しちゃった……」
「………………ふぅ ブチッ」
「…………すぅ……」
「……アリエル? おい、アリエル?」
「すぅ……すぅ」
「ね、寝てるっ…………! 俺を変態モードにしておいて自分だけ寝るとか! どれだけ小悪魔だよっ!」
「いやいや、それどころじゃねぇ……こんな所誰かに見られでもしたらヤバイぞ。縄は切ったから良いとして、アリエルを真っ裸で放っておく訳にはいかないよな…………とりあえず……このパンティを……ゴクリ」
「むにゃむにゃ」
「……お、俺が穿かせるのか……それはどう考えたって無茶だろ……いや、目を瞑ればあるいは……」
「ガチャリ!! 二人ともその場から動かないで!! って、リ、リーオ……アンタ…………」
「……ぬぉ!? ア、アクロ! い……いや、待て。違う、これは……その……何もかも違うっ!」
「そんな鼻血だらけでパンツ持った格好で言っても説得力無いわよ! アンタ……そこですやすや眠っているアリエルに何をするつもりだったのよ!?」
「違うっ! 俺はどちらかというとさっきまで押し倒されていた方で! 今はアリエルのパンティを!」
「脱がしたところなんでしょう!?」
「それは誤解だ、勘違いだ! アリエルの様子が突然おかしくなって……それで、その……」
「アリエル寝てるじゃないのっ!」
「アクロー! ふ、二人は……ど、どうだったのだわ…………って、ゼゼゼゼゼゼンララララッ!? この前アリエルが酔った時は、服だけは着ていたのだわ……服だけは……ま、まさかリーオが酔っぱらったアリエルに欲情して…… フラッ」
「おっとと……ソフラ、気を確かに持ちなさいっ!」
「は、破廉恥……破廉恥なのだわ……ナーノーダーワー……」
「それにしても、日頃から変態だとは思っていたけど……アンタの方から手を出すなんてね、見損なったわ! とりあえず一旦アリエルから離れなさいよっ!」
「お、おう」
「すぅ……ムニャムニャ……ギュッ」
「おっぱやっほおおおおおい!」「んなっ!?」「なのだわっ!?」
「……はぁっ……はぁ……ふぅ………………ソフラさんたら、顔に似合わず鬼畜すぎます……まさか魔法待機しながら走らされるとは思いもよりませんでしたよ……って…………わーお。これはこれは、なんという修羅場……」
「……むにゃ……リーオー……続きしよー……むにゃむにゃ……」
「………………ふぅ。ははっ、こやつめ……な、何を言って……」
「つっつっつっつづき…………ア、アリエル? ななななな、何の続きなのだわ?」
「んー……えっちなことだよう……むにゃむにゃ……」
「え、えっちなこと……なのだわっ!?」
「違うっ! どう考えてもエッチだったのはアリエルだけだろ!」
「すぅ……リーオ……激しぃよ……むにゃむにゃ……そんなに大きいの、お口に入らないよう……」
「何? お前、もしかして俺を社会的に抹殺したいの?」
「おーけい、総員戦闘準備しなさい……今から変態を全力で撃破するわ」
「レノア、一番派手な魔法ぶっ放すのだわ」
「し、しかし……走りながらで集中力足りてなかったとはいえ、それなりの威力出ますよ? そんな事してしまうと、この部屋が……」
「……修理にかかる費用のことなら、気にしないで良いのだわ」
「ソフラさんが珍しく太っ腹です。これが、お祭り騒ぎって奴ですねっ!」
「待ってくれ! これは壮大な誤解だ! そうだ! まずは落ち着いて話し合いの場を設けよう! 人は些細な誤解をきっかけとして無益で大きな争いを何度も何度も繰り返してきた! 話し合えば分かり合えることだってあるのに、それをしなかったから! だから、話し合おう! なっ!」
「あー……リーオ、それは無理よ。残念ながら人って過ちを繰り返す生き物なの」
「大丈夫なのだわ。貴方が何回分、変態モードになるほどの刺激と興奮を味わったかは知りたくないのだけれど、今の貴方なら恐らく死にはしないのだわ。死ぬほどの痛みを味わって、軽く数時間分の記憶が飛ぶくらいなのだわ」
「リーオさん。ごめんなさい……私、お祭りって大好きなんです」
「……くっ。あ、そうだ! ほら、ここで眠ってるアリエルまで魔法食らう事になるぞ! それでも良いのか!?」
「そうですね。今から放つ魔法は火炎系ですから、問題ありませんね」
「アリエルの炎耐性が異様なまでに高いのは、貴方も知っているはずなのだわ」
「……しばらくは登場予定の無い設定出されても困る!」
「さて、最期に何か言い残したいことはあるかしら?」
「もしも………………ボコボコにされた俺が、本当に数時間分の記憶失っていたら、そんな俺に伝えてほしい」
「何を伝えるのよ?」
「……酒場の職人に会え、と」
「はあ? 酒場の職人? 何なのそれ」
「絶対に伝えてくれ……頼む」
「わ、分かったのだわ、伝えてあげるのだわ……」
「ふっ。……なら俺は心おきなく死ねる…………さぁ来いっ! お前らの気持ち、全て受け止ぎゃばああああ…………!!」
「あ、すいません……なんか我慢出来なくって……ちょろっと漏れちゃって……」
「ちょ……ちょろっと……!? あれでちょろぶべらっ!?」
「レノア、気にしないで良いのだわ。ともかく……ここであった事を忘れる程度に、リーオを痛めつけるのだわ!」
「……ぐっ……ソフラ……刀は大事にしろよ……何故鞘ごと殴ブッ!? ……おう、アクロ……お前、その棍棒どっから持ってきた」
「内緒。……で、アリエルは剥がしたけど、どうすんの? そっちのベッドに寝かせておく?」
「むにゃん」
「そうしておくのだわ! きっと目覚めた頃には何もかも忘れている、のだわっ!」
「フゴッ!?」
「……これは、ドサクサに紛れて全裸にされた可哀想なアリエルの分ッ、なのだわッ!」
「んべっ!? ……ふ、ふふ……何度だって言う。それだけは誤解ぶべらっ!!」
「さぁて、張り切っていくわよー! せいっ」
「ギャバンっ! …………お、おい…………ところでシャリバンッ!? ……こ、この一方的な争いは、どれくらいの血を流せば終わるんだ……?」
「リーオ。ワタクシ達の夜は、まだ始まったばかりなのだわ」
「えぇ。少なくとも、アンタの意識がある内は終わらないでしょうね……」
「はーい。それじゃそろそろ魔力解放しますので、二人ともリーオさんから離れてくださいね」
「ほいほい」「分かったのだわ」
「くそうッ! 救いはないのか!? だが何度だって言ってやる…………」
「レノア、いっきまーす!」
「そ、それでも……俺は、やってぬわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「…………むにゃあ……そんなに沢山……食べられないよ…………」

▲モドル

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